16.

圧倒的な無垢が何処かへ行ってしまう。

それは、奥底に沈めてあった。

あるいは、それに意思があって、永遠に沈んでいるかのようだった。

 

悪意のことは知らなかった。

だから、悪意についての言葉をひとたび聞いたら、簡単に開いてしまった。

それは苦しく、開いてしまったが最後、皆が互いに苦しさを押し付けあって生きているのかもしれないと思った。

 

無知は罪だというけれど

行かないでと叫びながら、

今は、新しさの虜になるのだと

自分をひたすら呪い続けている。

15.

心が私の手を離れたときに

初めて人生が押し寄せてきた

心の補充は安直 だから

借金まみれ 自転車操業

私は何故か私

そういう気分から 未だ抜け出せないらしい

甘ちゃん

良いと言ってくれるきみも 悪いと言う誰かも

全然間違ってない

好きの反対は嫌いじゃない

でも嫌いになるのは好きのせいだ

心が私の手を離れたときに

初めて嫌いに気がついた

世間はずっと前から同じ

ひっくり返ったのはこちらのほう

分からない何も

それも含めて全部いいってことにならないかな

夜が明ける 日が昇る 日が暮れる 日が沈む

たぐりよせる 毎日

それだけじゃ 駄目かな

13.

停滞している幼い記憶は

一体私と関係あるのだろうか

 

ぶつ切りの過去はひどく単純で

そして つながらない

 

昔 転校していった3月生まれのあの子

同じ職場になっても気が付かないだろう

 

来年はスナップエンドウを作りたいというきみに

心を寄せてみて確かめる

この人は愛おしくて

そして私のぶつ切りを知らない

あるいはきみも ぶつ切りなのかもしれない

 

つながらない私というのも これでいいんだろうか

交わらない人生を積み重ねて

人は死に向かうということで それで

12.

自分には何もない なんて

何かあると思ってた なんて

馬鹿みたい なんて

馬鹿じゃないと思ってた なんて

 

期待しない なんて言葉振り撒いても

やっぱり期待している 全員 なんで

 

人生が惜しくない人なんていない 本当は

正対も反対も分からない 本当は

 

トンネル抜ける

窓に映る見知らぬ人も

似たり寄ったりな人生 抱えているのかもしれない

11.

言葉を仕舞い込んで

「仕方がない」で埋め尽くしていったら

取り出せなくなった

一体どんなところへ来てしまったのか 皆目見当もつかない

 

自己犠牲は許されたいから

それってプラマイゼロにならない マイだ

 

そういう気持ち 知らない時に

そういう気持ち 抱えて生きていたのかな

例えば貴方も

 

解らない中にあって

それでも解りたいと思ってしまうのは

馬鹿だったんだろうね?

10.

敵か味方か的だけど

基準体系の問題 それは

圧倒的に疑わしいのは自分

敵でも味方でもないよ

 

フリしたつもりが本当

来年には終わっている本当

そういうことで溢れているから 正義は都合のいい方向

程度と方向性というレベルでいいんじゃない

 

どっちつかずで ごめん

それってとても人間的でしょう

9.

朽ちていくものに寄せる思いは、

先祖に手を合わせる時の気分に似ている。

 

いくらでも酷くなれると思った時、

忘れ去られようとしている物どもは優しくなって、

手にできぬ思い出への憧れだけ、私に残す。

 

覚えていてよ。

覚えているから。

7.

会ったこともない面々、額縁の中にずらり。

眼差しから、生前を想像する。

認知症に片脚を突っ込んでいる義父。に、表出しているものの全てが、そこにある気がする。

何に疲れてしまうの、この家の人たちは。

自分の人生を、誰かのものにしてしまうの。

手を合わせて、聞いてみるけど、答えはない。